【タイ映画】アジア全土で記録的大ヒット。「おばあちゃんと僕の約束」が描く、家族のリアルと不器用な愛の物語

「タイのエンタメ」と聞くと、胸がときめく鮮やかな青春BL(ボーイズラブ)や、華やかなロマンスを真っ先に思い浮かべる方も多いかもしれません。ですが今、そのイメージを塗り替える、ヒューマン映画が世界中から高い評価を受けています。

それが、映画「おばあちゃんと僕の約束」(原題:How to Make Millions Before Grandma Dies / หลานม่า)。2025年の日本の劇場公開時は「おばあちゃんと僕の約束」という邦題で親しまれましたが、現在Netflixなどの配信では、英題を直訳したタイトル「おばあちゃんが死ぬ前に億万長者になる方法」として配信され、どちらのタイトルでも大きな話題を呼んでいます。

不純な動機から始まった「祖母と孫」の共同生活を通じて、家族の本質や人間のエゴ、そして誰もが避けて通れない「老いと別れ」を静かに、けれど圧倒的な熱量で描き出した作品です。本国タイで2024年に公開されるやいなや、同年の興行収入1位を記録。その感動の波は国境を越え、アジア各国で記録的な大ヒットを樹立、世界中の映画祭や配信でも軒並み高い評価を得ています。

タイ映画特有の「リアルな生活感」「クスッと笑えるユーモア」、そして気がつくと涙が止まらなくなる「エモーショナルな光景」が詰まった本作の見どころをご紹介します。

物語の主人公は、大学を中退し、一攫千金を夢見るもののうだつの上がらない青年・エム(プティポン・アサラタナクン)。彼はある日、若くして莫大な資産を手に入れた父方の従姉妹の女性・ミウに会います。彼女がその富を得た理由は、なんと「天涯孤独だった祖父の介護を最期まで献身的に行い、見事におじいちゃんの遺産をすべて勝ち取ったから」でした。

「ただお年寄りの世話をするだけで、億万長者になれるーー」

この従姉妹の“成功事例”に激しく感化されたエムは、すぐさま自分の身近な「ターゲット」に目をつけます。折しも、一人暮らしをしている母方の祖母・アマー(ウサ・セームカム)が末期がんであることが発覚。「おばあちゃんに一番に気に入られて、遺産をすべて相続しよう」。そんな邪良な下心を隠し、エムはアマーの家に転がり込み、にわかケアギバー(介護者)としての共同生活をスタートさせます。

アマーは長年の生活の知恵と、酸いも甘いも噛み分けた鋭い観察眼を持つおばあちゃん。孫の下心などお見通しと言わんばかりに、エムの不器用な介護をあしらいます。一方で、遺産を狙って群がる他の親族(エムの叔父たち)との泥臭い駆け引きも勃発。全編を通じて、現代のタイにおける中華系一族の家族観や、高齢化社会のリアルな「光と影」がコミカルかつ辛辣に描き出されていきます。

最初は「ビジネス」として始まった介護。しかし、アマーが毎朝売る粥の仕込みを手伝い、不器用ながらも同じ時間を重ねていくうちに、従姉妹の模倣から始まったエムの心には、「遺産」という数字以上の変化が生まれ始めます。

本作はGDH(「バッド・ジーニアス 危険な天才たち」などで知られるタイの名門スタジオ)が制作。お涙頂戴のホームドラマではなく、家族の泥臭いエゴや現実に誰もが抱く冷めた視線もしっかりと描き切る、質の高いプロットが見事です!

本作の最大の魅力は、画面から生活の匂いが漂ってくるほどリアルなキャラクターと、それを演じたキャスト陣のアンサンブルです。

プティポン・アサラタナクン(Billkin) 〜「等身大の若者」を熱演

日本でも爆発的な人気を博したタイBLドラマの金字塔『I Told Sunset About You 〜僕の愛を君の心で訳して〜』の主演として、圧倒的な演技力と歌唱力を世界に知らしめたBillkin(ビルキン)

本作で彼が魅せるのは、かつての瑞々しい青春の煌めきとは一線を画す、「どこにでもいる、ちょっとずるくて優しい若者」の姿です。作中ではパッツン前髪に、ノーメイクに近いナチュラルな姿で、現代を生きる若者の気怠さ、下心が空回りする滑稽さ、大切な人の死に直面していく葛藤を、繊細に表現しています。 特に、後半で見せる「瞳の揺らぎ」と涙の演技は必見。アイドル・アーティストとしての華やかなオーラを封印し、一人の「映画俳優」として新たなステージへ到達した彼の演技は、世界中で絶賛されました。映画を観たあと、彼のInstagramを見ると、その「The アイドル」の表情にいい意味でびっくりさせられます(ギャップ!)。

ウサ・セームカム(Taew) 〜オーディション大抜擢の「みんなのおばあちゃん」

物語の核となるアマー(おばあちゃん)を演じたのは、なんと本作が演技初挑戦となった、当時70代後半のTaew(タェウ)さん。何百人ものオーディションから選ばれた彼女の存在感は、まさにこの映画の魂です!

頑固で、倹約家で、子どもたちを愛しながらもその本音を見抜いているアマー。彼女の日常の何気ない仕草や、孫に向ける眼差し、小さくなっていく背中。演技とは思えないその佇まいは、観る者全員に「自分の祖父母や大切な人」を重ね合わせる力を持っています。

本作がこれほどまでに世界中で共感を集め、映画としての深い説得力を持っている理由は、「家族という、一番愛おしくて、一番面倒な存在」を綺麗事抜きで、極めて多角的に描いている点にあります。

物語は最初、現代の若者であるエム(孫)の視点で進んでいきます。しかし、アマー(おばあちゃん)との生活が深まるにつれ、カメラはアマー自身が抱える「母親としての複雑な胸中」をも静かに映し出していきます。

アマーには3人の子ども(エムの母親と、2人の叔父)がいます。 事業に失敗しては金を無心しにくる長男、経済的には成功しているもののどこか冷淡な次男、そして自分の生活を犠牲にしてまで必死に介護をしてくれる長女(エムの母親)。アマーは、子どもたちそれぞれの欠点も、生活の苦しさもすべて見抜いています。誰かを特別扱いしているように見えて、実はそれぞれに対して異なる種類の「深い愛」と「消えない心配」を抱えているのです。

そしてさらに、子どもたちに向ける視線とはまた一線を画す、エム(孫)への特別な愛情の形。

【ここが胸を打つ!】 親としての子への愛、祖母としての孫への情、そして一人の人間としての孤独。これらが複雑に絡み合うアマーの姿が描かれることで、物語の厚みは一気に増していきます。
個人的には、アマーが病気になったあと、実の兄の屋敷を訪れるシーンが忘れられません。男性優位の文化が色濃く残るタイの中華系一族において、「娘」であるアマーがかつて直面せざるを得なかった相続の不条理や、時代の波の中で静かに飲み込んできた割り切れない想い。多くを語らないアマーの背中から、彼女が歩んできた人生の重みと、家族という枠組みが持つ綺麗事だけでは片付けられない現実が静かに伝わり、胸が締め付けられました。

遺産を目当てに急に優しくなる子どもたちの泥臭いエゴ、それぞれに事情を抱える兄弟の確執、そしてどれだけ尽くしても報われないかもしれないという徒労感。家族は一番身近で、何よりも大切な共同体でありながら、同時に最も複雑で繊細なものであるという事実を、私たちは改めて痛感させられます。

「人は誰のために生き、誰のために時間を使うのか」 映画が進むにつれ、エムやアマーが静かに見出していくその答えに、ぐっと揺さぶられました。

タイ映画の歴史を塗り替えた本作。ぜひチェックすべき理由を3つに凝縮してお届けします!

  • 約2時間で深く没入できる至高のストーリー:忙しい日常の合間や、週末の一人の夜に、一瞬で心を掴まれ、最後まで一気に見届けられるテンポの良さ。
  • 生活の匂いまで描く圧倒的な映像美:映画『バッド・ジーニアス』の系譜を継ぐGDHスタジオが手掛けており、バンコクの下町の喧騒からアマーの古い自宅に差し込む光まで、どのシーンを切り取ってもどこか懐かしく、アートのように美しいです。
  • 心が震えるサウンドトラック:主演のBillkin(ビルキン)自らが優しく歌い上げる主題歌「Beautiful Stardust(สวยงามเสมอ)」の切ないメロディが、物語の余韻をさらに深く広げます。

劇場や配信で世界中を席巻している「おばあちゃんと僕の約束」。

タイドラマの「今」の圧倒的な底力を知るためだけでなく、家族という一番身近な存在について改めて目を向けてみるきっかけにもなる一作です。

項目詳細情報
配信タイトルおばあちゃんが死ぬ前に億万長者になる方法
日本劇場公開タイトルおばあちゃんと僕の約束
原題(タイ語)หลานม่า (Lahn Mah / ラーンマー)
英題How to Make Millions Before Grandma Dies
製作年 / 上映時間2024年 / 126分
製作国 / スタジオタイ / GDH 559(「バッド・ジーニアス」等)
ジャンルファミリー / ヒューマンドラマ
監督・脚本パット・ブーンニティパット(Pat Boonnitipat)
主なキャスト・プッティポン・アッサラッタナクン(Billkin)
・ウサー・セームカム(Taew)
・サリンラット・トーマス(Tu)※母親役
・トンタワン・タンティウェーチャクン(Tu)※従姉妹役
配信情報Netflixにて見放題独占配信中
主な実績・第97回アカデミー賞国際長編映画賞 タイ代表
・2024年タイ国内興行収入大ヒット記録お

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